ペット購入時の契約と責任について

引き渡したペットについて責任は持たない?

某オークションサイトなどで、商品の紹介文の中には“3N”とか、“ノークレーム、ノーリターン、ノーキャンセル”などといった文言が書かれている事が良くありますよね。
それと同様に、ペットショップでペットを購入する際、特に、犬や猫以上のサイズの動物を購入する際には、
お渡ししたペットについては、原因の生じた時期や理由の如何を問わず、当店は一切責任を負いません
などといった文言の条項を入れた売買契約書を交わされる場合があります。
簡単に言えば、
ペットの引き渡し後の事は一切責任持ちません
という事を明示しているのです。

しかし、ペットショップでの飼育状況(商品としての保管状況)は、必ずしも良い状況と言えない場合も少なくありません。
そうした中で、明らかにペットショップに居た時に感染したと思われる病気により重篤な状況に至った場合でも、ペットショップに責任を問う事ができないのか?
といった事が問題になるケースがあります。

今回は、上記のような問題について、一般的な考え方から、法律的な問題まで掘り下げて、ペットショップの責任について説明してみたいと思います。同様なケースに直面している方は、参考にしていただけると幸いです。

一般責任

購入したペットの病気が、明らかにペットショップに居た時に感染していたと証明することができれば、ペットショップの責任を問うことができると考えられます。なお、どの時点で感染に至ったか?については、獣医師による病気の診断、感染症であれば、その潜伏期間、及び購入時期などに基づいて明らかにできれば良いでしょう。

一般的には、商品の価格は、その商品の状態や相場に応じて設定されます。このため、価格が極端に安ければ、キズや欠陥があるなど、相応の理由がある場合も多いのです。これに対し、一般的な価格設定で、特に注意書きも無い商品については、売り主も買い主も、商品にキズや欠陥(総合して瑕疵(かし)と言います)が無いことを前提に考え、売買契約を結ぶこととなります。

このため、特に注意書きも説明も無く、一般的(と思われる)な価格で販売されていたペットを購入した際、その後にペットショップに居た時から明らかな瑕疵(感染症)が生じていたことが判明した場合、それについて何も責任を取らないというのであれば、契約上のバランスが大きく損なわれ、買い主側が不利な契約となってしまいます。

こうした契約は民法上認められておらず、民法第570条に、売買契約における売り主の「瑕疵担保責任」として、
売り主は、売ったものに瑕疵が無い事を保証する
義務がある事が明示されているのです。
このため、売買契約書にどのような事が記載されていようと、販売された時点でペットが感染症にかかっていた事が明らかだったような場合には、ペットショップは、契約解除(買い取り)や、損害賠償に応じる必要が出て来るのです。

なお、潜伏期間が非常に長く、一般的に感染症であった事が判らない場合や、何等かの訳有りの個体である事が明示され、相応の価格設定とされている場合には、ペットショップの責任を問う事はできない場合もあります。
実際、某オークションにおいて一般相場よりも安値で落札した商品が、商品説明と明らかに違い、3N表記していた商品の出品者を訴えた際、オークションの性質や、落札価格から、商品の状態は一般相場の域に無い事は予測し得た事項であるとして、訴えが退かれた判例もあります。

無責任な条項の効果

上記のような文言の条項は、もともと、ペットを引き渡した後、買い主の行動が原因で起きた出来事に対するトラブルを避けるために設けられた一文であったのかもしれません。

“購入後にキャリーケースから出したら勢いよく走り出し、車等に轢かれてしまった!何も説明を受けていないので責任をとれ!”
なんて事を平気で言って来る買い主というのも実際にいるそうです。そうした悪意のある買い主に対して、“購入後のアフターケアについても万全です!”と謳っていたら店側が大変な事になってしまいます。

しかし、ペットショップによっては、単に、トラブルが生じた際に自分に有利になるような契約書を作り、責任逃れをしようとするところもあります。買い主が、ペットの売買について詳しく無いことを良い事に、法律上負わなければならない責任を免れようというのですから、そういう輩には、相応の罰則を与える必要がありますよね。

よく、“日本は被害者に優しくない”と言われる事があります。実際、売買契約に関しても一昔前までは消費者保護に必ずしも熱心ではなく、消費者が食い物にされる事態が数多く見られました。このため、ペットショップ側が買い主の知識、経験不足につけこんで、一方的に作る無責任きわまりない契約の項目が、
正しいもの
とする主張が成り立ってしまっていたのです。

近年では、売買契約に関しても状況が大きくかわりつつあり、法律上も、消費者保護が厚くなってきています。平成13年4月から施行されている「消費者契約法」の内容も、その1つです。平成28年の改正(平成29年4月より施行)では、さらに消費者保護が厚くなり、
不当な契約条項が含まれている場合、その条項は無効である
とされるようになりました。
そして実際、消費者契約法の第8条には、
損害賠償の全部を免除する条項や、事業者の故意又は重過失による場合に損害賠償の一部を免除する条項は無効
であるとする条項が含まれています。

このため、例えペットショップが売買契約書に
お渡ししたペットについては、原因の生じた時期や理由の如何を問わず、当店は一切責任を負いません
といった条項を含めていたとしても、これは無効とされ、買い主側は、ペットショップの瑕疵担保責任を問う事ができる事になるのです。

つまり、悪徳ショップの逃げ得は、法律上も許されないのです。
消費者契約法、第8条
民法第570条の瑕疵担保責任
この2つを覚えておいてください。