接種期限が延長された狂犬病予防注射の義務と影響

狂犬病の発生状況(出展:厚生労働省HP)

本年(2020年)は、コロナ禍の影響により、毎年4月から6月の間での接種が義務付けられている飼い犬への狂犬病予防注射の接種率が低下している事を懸念している。4月、5月は緊急事態宣言と外出自粛により、公共の場所での集団予防注射が中心されたりした事も、その要因の1つであろう。

このような事態を受けて国は、注射を受ける期限を2020年の年末まで延長し、飼い主に狂犬病予防注射を受けるように促している。

狂犬病予防注射って受けなければならないの?

狂犬病予防注射の摂取は、狂犬病予防法という法律の第5条で、毎年1回受けさせなければならないと定められている。また、狂犬病予防法施行規則には、生後91日以上の犬の所有者は、法第5条第1項の規定により、その犬について、狂犬病の予防注射を4月1日から6月30日までの間に1回受けさせなければならないと規定されている

ちなみに施行規則というのは、法律を実行させる上での細かな取り決めであり、法律よりも比較的簡単に改正する事ができる部分でもある。

そもそも狂犬病ってどんな病気?

狂犬病は、動物・人をはじめ全ての哺乳類で脳炎を起こして死亡させる重症疾患である。何よりも恐ろしい点は、発症すると、短期間のうちにほぼ100%死亡するという点で、今の医療技術では治療法が確立されていない感染症だ。

人間(ヒト)の国内での狂犬病感染の症例は1957年を最後に感染例は無いが、海外渡航時に感染し、帰国後に発病、その後に死亡した例がある。直近の例では2006年と言われている(外国人も視野に入れると、2020年2月にフィリピンから来日した外国籍の男性が感染し、死亡した事が報じられている)。このように、国内では近年の感染例は無いものの、WHOの報告では、年間5万5千人もが狂犬病で死亡しているという。

狂犬病予防注射を受けないとどうなる?

初めにことわりを入れておくと、上述したように、狂犬病予防注射は年1回受ける事が法律で義務付けられている。このため、これに違反した場合には罰則がある。罰則規定は、同法27条に定められており、20万円以下の罰金刑とされている。

これらを踏まえたうえで、東京大の杉浦勝明教授(獣医疫学)らの研究チームが2017年に、国際獣医学誌「プリベンティブ・ベタリナリー・メディスン」に発表した内容を抜粋して説明する。

研究内容は、国内で狂犬病注射を接種した後、1~3年が経過した144匹について、ワクチンによる抗体価(抗体の量や強さの事)がどの程度持続するかを分析するというものである。その統計によれば、過去に5回以上注射を受けた犬は、2年後も96.9%、3年後でも93.0%の割合で十分な抗体価を維持していたという。

また、過去に注射を受けた回数が2~4回の犬でも、2年後に92.1%、3年後で83.0%の割合で十分な抗体価を維持していた

一方で、予防注射を受けた回数が1回だけの犬では、2年後に十分な抗体価を維持していた犬は、54.8%であったという。

こうした結果から、狂犬病予防注射を過去に2回以上受けている犬の場合、次の摂取までの期間が法定基準よりも長くなったとしても、抗体価を維持する事ができている場合が多いのに対し、過去に狂犬病予防注射を受けた回数が1回未満の犬の場合には、摂取基準を守って2回目の注射を受けた方が良い事がわかる。

よって、2歳未満の犬を飼育されている飼い主さんは、比較的早めに予防注射を受けさせてあげた方が良いと言えるでしょう。