ペットと医療トラブル

昔に比べて高い次元で、ペットが「家族の一員」として見られるようになった昨今、動物病院にお世話になるペットは一昔前よりも確実に増えてきています。動物病院にかかる数が増えるという事は、獣医師側、飼い主側共に、それぞれの資質が問われる場面も増える訳で、動物医療(獣医療)に関するトラブルも、増えつつあるようで、その内容に関しては、一昔前ではあり得なかったような事も出てきているようです。

獣医療の高度化の良し悪し

ペットの家族化の地位が高まるにつれて動物病院には、獣医療の高度化が求められるようになり、その進歩は確実なものとなっています。また、動物医療の従事者に求められる知識としても、獣医学だけでなく、動物行動学など、獣医療の周辺領域にまで至り、多角的視点からの研究が進むようになってきています。

さらに、動物病院という枠においても、そうした高度な医療への対応を担うために、高額な医療機器を導入するなどの対応を採るところが多くなってきています。一方で、飼育されるペットの多様化が進む近年の状況から、獣医療の専門化、分業化とチーム化などが必要とされてきており、獣医療の現場は大きく変化してきていようです。

獣医療の多様化とインフォームド・コンセント

獣医療の高度化は、獣医療の可能性を広げ、一昔前には救えなかった多くのペットを救うことができるようになってきています。
あくまで「ペットはペット」と考えられていた時代の一般家庭では“ペットにそこまではできない”と考えられていたような治療を施す事ができるようになったのです。

このような時代と意識の変化の中、獣医療では、獣医師と飼い主との間でのインフォームド・コンセント(獣医師による判りやすく十分な説明と、その説明を前提にした飼い主側の同意)が、これまでになく重要になってきています。
獣医療の高度化に伴い、複数の治療方針や、それに伴うリスクや費用など、様々な選択要因が出て来るようになってきています。本来であれば、治療を受ける者が自己の治療方針を選択すべきところですが、ペットは自分の意思で治療方針を選ぶ事はできません。
このため、どのような治療を行うかは、飼い主の意思により選ばれるべきであると考えられ、それが重視されるようになってきているからです。

検査や治療方法の特徴と長短得失を獣医師ができるだけ分かり易く飼い主に説明し、飼い主側がこれを理解して納得した上で治療が進めば、獣医療の現場におけるトラブルというのは少なくなるはずです。

しかしながら、素人である飼い主が“医療”の事を完全に理解する事は難しい場合もあり、また、獣医師が何を言っても
「難しい事は解らないから、とにかく治してくれ!」
としか言わない飼い主もいたりするのも事実です。
こうした事から、獣医師側も、説明が無駄であると決め付けてしまう場合もあり、結果としてトラブルに発展するケースもあるのです。近年では、インターネットなどにも様々な情報が開示されている事から、飼い主側がペットの病気を“○○だ”と思い込んだ上で動物病院にやって来て、正しい情報を伝えてもらえない場合もあるようなので、こうした“説明が無駄”に思えてしまうケースがあるのも仕方無いとは思います。

飼い主の姿勢の変化

しかし、ペット保険などの拡充が進む現代では、ペットの家族としての地位の向上に伴い、上述したように、高度医療による医療費の高騰を理由に治療を断念する事が少なくなってきています。一方で、こうした高度医療に対する医療費を単純に、“治療に対する対価”として捉える飼い主は、それに見合った結果を求めるようになるのも事実です。
このため、治療に不審点を持ったり、万が一良い結果が出なかったり、“自分が考えていた結果”と違ったりした場合に、これを厳しく糾弾し、訴訟に発展するケースも増えてきています。

こうしたトラブルを防ぐ観点からも、飼い主側と獣医師側との信頼関係を築くという意味でも今後は、インフォームド・コンセントが今まで以上に重視されてくるのではないでしょうか。飼い主はペットを家族として捉えるのであれば、獣医師の説明を真摯に受け止め、分からない事は分からないと伝え、治療方針を理解する事に努めるようにし、仮に何度聞いても獣医師の説明が判らない。ちゃんとした説明をしてもらえないという事であれば、セカンドオピ二オンという選択肢も視野に入れるようにすると良いでしょう。