鳥羽水族館のダイオウグソクムシ
先日、爬虫類の脱皮についての記事「爬虫類の脱皮を栄養面から支えよう」に“甲殻類の脱皮は命がけ”として、少し触れていたのですが、深海の巨大ダンゴムシとして人気の高いダイオウグソクムシの脱皮に関するニュースが、共同通信の12月10日Web版(KYODO)に載っていました。
元記事
以下、KYODOの記事より(リンク先は元記事)
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三重県鳥羽市の鳥羽水族館は10日、10月に脱皮した深海生物「ダイオウグソクムシ」が死んだと発表した。
死因は不明。
脱皮の確認は世界で5例しかなく、過去4例はいずれも体の後半部を脱皮後に死んだ。
水族館によると、前半部を脱皮すれば世界初だった。
飼育員が10日午前に死んでいるのを見つけた。
10月13日に脱皮が確認され、前日まで変わった様子はなかったという。
同館は
「前半部の脱皮に成功してほしかった。ただただ残念だ」
と話している。
ダイオウグソクムシはダンゴムシの仲間で海底に沈んだ動物や魚の死骸を食べることから「深海の掃除屋」とも呼ばれる。
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感想と見解(想像)
この記事では「死因は不明」とされていますが、私的な印象では、明らかに脱皮失敗による死であると考えます。
先日の記事では、甲殻類の脱皮については殆ど触れていませんでしたが、前後に長い甲殻類エビやダンゴムシ、バッタなどは殆ど、体の真ん中部分の背中側から前半部分と後半部分に殻が割れて脱皮するんです。
ちなみに、カニの場合は、カタチが特殊ですが原理は同じで、背中側(甲羅の後ろ側)からガバッと抜き取られるように脱皮します。食べる時に上手く剥けると気持ち良いやつの全身バージョンみたいな感じですね。
話が少しそれましたが、甲殻類は、体の前側と後側、それぞれに分けて脱皮をするんです。種類によって、前後同時になるか、別々になるかといった違いはあるようで、ダンゴムシの仲間(ワラジムシ目)は、前後別々に脱皮を行う場合が多いようです。
記事によると、このダイオウグソクムシは、10月に後側部分の脱皮を終えていたにも関わらず、12月に入っても前側の脱皮が行われていなかったとのこと。通常、ダンゴムシの仲間は、後側の脱皮を終えてから数時間から数日の間に前側の脱皮を行います。ダイオウグソクムシの代謝が悪いとはいえ、2か月以上脱皮途中というのは、いくらなんでも時間の掛け過ぎで、失敗していると言わざるを得ないのではないかと思います。
機能不全と栄養失調
とくに、体の前側部分の脱皮失敗は、視覚や触覚、口といった、生きるために必要な機能が働かなくなるという危険があります。数か月間から数年、食事をとらなくても生き続けることができるというダイオウグソクムシですが、脱皮という行為には、多くのエネルギーを使います。このため、脱皮開始によるエネルギー消費と、脱皮失敗による機能不全による栄養失調により死亡したと考えるのが普通ではないでしょうか。
また、脱皮失敗についてですが、「爬虫類の脱皮を栄養面から支えよう」でも触れた栄養面の管理ができていなかったという事もあるかもしれません。この点については、上にも少し触れていますが、ダイオウグソクムシは餌を殆ど食べないらしく、栄養管理が非常に難しいというのがあるのでしょう。
環境上の問題
しかし今回のケースの場合、環境面の問題もあったのではないかと考えます。
ダイオウグソクムシは通常、180m~2000mの深海に生息しているそうです。それだけの深さに生息していたら、当然水圧というのは常日頃からかかってきているはずです。これに対し、甲殻類の脱皮は、硬い殻の内部の圧力が一定以上になった場合に行われる行為です。通常、水族館の水槽がどのような環境下にあるのかがわかりませんが、常に深海と同等の圧力をかけておく事は無いだろうと考えます。
そうすると、水によって掛けられる外圧が抜けた状態で、脱皮を行うこととなる内部圧力が生じる状態というのは、既に脱皮を行うには成長し過ぎた状態になってしまっていたという可能性があるのではないでしょうか?
殻の中で通常よりも膨張してしまった本体、下半身については構造が簡単なのでなんとか抜け出せても、構造が複雑な上半身はうまく抜く事ができず、時間が経過してしまった。
新しい殻が柔らかい期間は、せいぜい数日から数週間であると考えると、抜け出せないまま脱皮は失敗に終わり、機能不全を起こして死に至ったという風に考えられるのです。
ちなみに、深海に生息する甲殻類の仲間であって、水揚げされた後にも脱皮の光景などが良く見られるマツバガニは、水深200m~400mに生息しているらしいので、ダイオウグソクムシの生息圏からするとまだまだ浅い領域なので、水圧の影響を考慮しなくても良いのかもしれません。
また、深海にいる時には、体の内部の圧力と外部の圧力は同じだという説もあるかと思いますが、水揚げされた甲殻類が破裂したという事は聞いた事がありません(海底で内圧が外圧と等しいとするならば、網などで一気に水揚げされた甲殻類の内圧は、外圧よりも非常に高くなるはずです)。このため、甲殻類の殻は、水圧に耐えるための構造の一部でもあるのではないかと考えられる気がします。